「 回 帰 」
の蒸し暑さもようやく過ぎ去り秋の気配が感られるようになるとサケやマスは北の海から帰ってくる。どのようにして遥かかなたの北洋の海から故郷の川まで戻ってこられるのか、どうして生まれ故郷の川に戻る必要があるのか本当の事は今でも判っていないらしい。彼等は時として私たちが忘れてしまった動物自体が持つ超能力と神秘的な行動で僕達を魅了する。
 知床岬先端近く、「地の果て」秘境と呼ぶにふさわしい場所だ。船でしか行くことが出来ない小さな湾で潜った時のことだ。湾の入り口から潜り始めてみると一面のコンブ、この幅広で立派な羅臼昆布の林を進んだ。湾の奥近く、急に視界が開ける。水が陽炎のように揺らめく場所に行き当たった。海水と真水が混じりあう小さな川の河口だ。そして魚の陰が“ゆらゆらと”見える、遡上直前のカラフトマスだ。彼らは遡上の為にここで体を真水に馴らしていたのだ。ぼや〜とした夢の中に居るような光景、私の存在に気がついたマスが動き出した瞬間、陽炎の一部が一瞬途切れた。凛々しい雄のマスがシャープな体を見せてくれた。夢と現実が一緒になったような不思議な光景だった。
撮影地:知床半島先端部  ニコノスV 15mm 1/125 f5.6 RVP100 自然光




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阿部秀樹写真事務所/HIDEKI ABE PHOTO OFFICE
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